雲の多い空を見上げた。明るめの曇りといった天候だろうか。
太陽はそこにあるとわかっても、薄灰色の雲に覆われて光はいまいち地上までは届かず、はっきりしない微妙な天候だった。
時刻はとっくに昼は過ぎてしまっていたように見え、湿気が多いのか、肌に受けたのは少し生ぬるい空気だった。
見上げていた空から視線を下に移すと、桜が咲いていた。
6~7分咲きだったろうか。それでも桜だ、と目線を奪われるほどの存在感はあった。
整備されている様子から、人気のない見知らぬどこかの公園だった。石畳の上のあちこちにそれらが植えられていた。
誰もいないのは、まだ満開には遠くしかもこのような陽気だったからだろうか。
そこで人知れず咲く花の様子は、どこかノスタルジーという表現が似合っていた。
一瞬風が少しだけ吹き、木々がざわめく音がした。
風で視界を遮った髪の毛を掻き分けると、穏やかに水が波打つような音が左の足元から聞こえた。
その水はとても澄んでいて、そのさざ波はこちらの足元まで少し届いた。
水のやってきた方向に目をやると、石階段を2段下へ数えたその先は水辺だった。やはり、水はとてもきれいに澄んでいた。
その先の景色はよく見えないほど遠かったので池というのか川というのかよくわからなかったが、ただ穏やかな水面がどこまでも広がっていた。
公園だから水辺があっても不思議はないと考た。その先は深そうだと感じ、水辺から遠ざかるように薄く水が張った地面の上をゆっくり歩いた。
桜が咲く下、浅い水面をただぼんやり歩くのは不思議な感覚だった。
川沿いに植えられているものはあっても、地面が直接水につかるような場所にそのまま桜の木が生えている場所は見たことがない。
ただ何となく自分が異空間にいるということだけ認識していた。
頭の中がぼんやり、霞がかかったかのようだった。
ここはどこだとか、どうしてここへ、とか、そう疑問に思うことさえも億劫なくらい薄い意識だった。
どこかで聞いた話では脳が覚醒しきっていない状態のため、判断が鈍って夢を夢と気づけないことがあるのだとか。おそらくその状態だったのだろう。
水辺から離れ、気づくと足元が水気のない地面になってからもう少し歩くと、背の高く立派な濃いピンクの枝垂れ桜の木だけが満開になっていた。
花の大きさと迫力、色からすると八重桜と思われた。
開花時期的に考えれば逆なのだが、その桜の存在自体が特別なのものだと直感で気づいた。ひっそりと誰もいない公園の奥で一本佇む枝垂桜は別格であった。
その枝垂桜の下をくぐり、石畳の階段を下りた先があるようだが、それより先は足元が悪く、来た道を戻ろうとしたとき。
その枝垂桜があっという間に散って葉だけになってしまっていた。
あまりの一瞬の出来事に理解が追い付かなかったが、とても見事な桜だっただけに一瞬の儚さともの寂しさがとても強く印象に残った。
来た道の桜の木々も葉桜となっていた。
天気はだんだんと回復し、健康のために公園を散歩しにきたようなお年寄りなどの人たちと時々すれ違うようになった。
これは帰るしかない、と思った瞬間に目が覚めた。
今日見て覚えている夢の終始が以上だが、少々不気味だけど綺麗だったという点で謎が残る終わり方をした夢だったから特に鮮明に覚えていたのかもしれない。
少し怖い解釈をすると…
舞台は迷い込んだ世界はあの世とこの世の境目か。
桜は日本の象徴。あの世とこの世の考え方のある国だ。終始ぼんやりしてはっきりしない異空間とするとだいたい合っている。
特に荷物という荷物も所持しておらず、途中の水辺には行かなかった。足元の悪い所は心地も悪かったのでその先は多分地獄へ続く場所への象徴だったのかもしれない。
そのどちらにも行かず引き返した、ということはどちらも今は行く場所ではないということで。桜が散ることでそこから去るきっかけに。
最後にこちらにお年寄りらが反対方向から元気に歩いてくる…。ここの極めつけ感。
縁起悪い解釈かもしれないが、特に信仰があるわけでもないので特に深くは考えていない。
夢は夢なのだ。